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help リーダーに追加 RSS 影執事マルクの手違い 予告編

<<   作成日時 : 2008/10/15 22:32   >>

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 玄関ホール。見上げるほど高い天井。床には正方形に切り出された石畳が敷き詰められ、その上には踏めば足が沈み込むような上質の絨毯が敷かれている。絨毯は緩やかな曲線を描く階段へと続いており、壁には数点の風景画が飾られている。
 その玄関ホールにて、燕尾服に実を包んだ少年が丁寧に腰を折る。

マルク(以下マ):「ようこそおいでくださいました。私はここ、蜃気楼の屋敷ことヴァレンシュタイン家に仕える執事マルク=マルドゥーク。このたび発売されることになりました『影執事マルクの手違い』の主人公を務めさせていただいております。本編刊行に先駆け、ご挨拶をさせていただくことになりました」

 ぺこりと丁寧に腰を折るマルク。

マ:「それでは、さっそくではありますが、自己紹介などさせていただきたいと思います。とは申しましても、私一人で語るのもいかがなものかと思いますね。ということで、本編にてヒロインを務めていただいております、我が主エルミナ=ヴァレンシュタインにおいで願いたいと思います」

 マルクがそういうと、階段の上に一人の少女が姿を見せる。金色の髪と翠玉の瞳。藍色のドレスに身を包んで優雅に肘を組む。しかしそこに表情というものは存在せず、もはや威圧的とすら呼べる無表情。

マ:「………………あの、お嬢様? なにかコメントをお願いします」

 マルクがにわかに微笑を引き攣らせてそう言うと、少女は翠玉の瞳をゆっくりと揺らす。

エルミナ(以下エ):「……話すことは、ない」
マ:「………………………………」
エ:「……………………………………」
マ:「……えー、ただいま、放送上、不適切な表現が含まれていましたことを深く、お詫び申し上げます」

 マルクはすごい勢いで階段を登り、エルミナの手を引くとホールの向こう、廊下へと消える。

マ:(お、お嬢様! こ、困ります! 出版前に作品アピールしようという企画なのですよ? いきなりマイナスイメージです)
エ:(……こういった場で、話すことが思いつかないのだ)
マ:(だったらそういうふうに仰ってください! ……って、もしかして、お嬢様、緊張なさっているのですか?)
エ:(……そう、見えないかね?)
マ:(申し訳ございません。まるで気づきませんでした)
エ:(………………………………(どこか批難するような眼差し))
マ:(わ、わかりました。なんとかいたします……アイシャ どこにいますか、アイシャ!)

 マルクの呼びかけ……というよりももはや縋るような声が響き、やがてキイ――と、扉の開く音。玄関ホールに真っ白のエプロンをした侍女姿の少女が現れるが、誰もいないことに首を傾げてキョロキョロと辺りを見回す。

マ:(アイシャ。上です。二階に来ていただけますか?)

 アイシャと呼ばれた侍女は不思議そうに首を傾げ、それから階段を登る。二階に到着すると、マルクたちが消えた廊下へと進む。

アイシャ(以下あ):(マルクさん……エルミナも、なにやってるんですか?)
マ:(実は……かくかくしかじかで……)
あ:(えええええぇえっ? あ、あたしがお話するんですか?)
マ:(お願いします。ご自分の趣味などをお話していただければ十分ですから)
あ:(あ、あたしの趣味なんか聞いて、誰か喜ぶんですか?)
マ:(それは…………分かりませんが)
あ:(分からないんですか?)
マ:(お嬢様。とにかく、アイシャが見本を見せてくださいますから、それで流れを掴んでくださいまし)
あ:(マルクさん。酷いです……)

 なにやら傷ついたように涙ぐむ侍女の手を引き、マルクが再びホールに二階に姿を現す。

マ:「えー、大変失礼いたしました。予定を変更しまして、お嬢様にお仕えする侍女アイシャ=クラン=ウィードをご紹介いたします。ヒロインであるお嬢様を差し置いて、イラスト出演数、主人公に次ぐ2位を誇るクーランの少女でございます」
あ:「は、はわわわわ、あたしってそんなに多いんですか? あ、う、その、あ、あたしは、アイシャと言います。年は13です(それから、救いを求めるようにマルクへ視線を向ける)」
マ:(あとは、趣味や好み、特技などでも仰ってください)
あ:「え、ええっと……趣味は、花壇の手入れです」
マ:「アイシャらしいですね。どんな花を植えているのですか?」
あ:「ここの花壇って、なにを植えても花が咲くんです。だから、見つけた種とかはなんでも植えたりしてます」
マ:「…………ええ。まあ、植えてみたくなりますよね」
あ:「なんで目を逸らすんですか?」
マ:「さあ、それでは好みなど訊いてみましょうか」
あ:「話まで逸らされました……。えっと……好きなもの、というか好きなことですけど、体を動かすことです」
マ:「ほう……、少し意外ですね。具体的にはどんなことを? 散歩などでしょうか?」
あ:「ドミニクさんが体操の本とかくれるんで、それを見ながらやってます」
マ:「補足説明させていただきますと、ドミニクさんはこの屋敷の家令でございます。お嬢様のお使いで留守にしていることが多く、現在も席を外しております。……さて、それでどんな本なのでしょうか?」
あ:「ええっと、どういう意味の言葉かは分からないんですけどかぽえら≠チて書いてました」
マ:「………………………………」
あ:「……………………………………」
エ:「…………………………………………」
マ:「ま、まあ、体を動かすことには違いありませんね。他にはどんなご本を参考に?」
あ:「ええっと、どこかよその国の本らしくて字は読めないんですけど、この本の絵とかを真似してみてます」

 アイシャが取り出した本は手作りのもので、マルクにも読めない文字で書かれていた。それをのぞき込むエルミナ。

エ:「……実践柔術……とある」
マ:「ドミニクさん……。あなたはこの娘になにをさせたいのですか?」
あ:「あの、変な本なんですか?」
マ:「そうですね……。アイシャが読むには少し早いように思えます」
あ:「ど、どうしよう。あたし、それほとんど覚えちゃいました」
マ:「…………えー、最後に特技を訊いてみたいと思います」
あ:「や、やっぱりいけないことなんですか? あう、ええっと、特技ですか? 特技は、料理です!」
マ:「………………………………」
あ:「……………………………………」
エ:「…………………………………………」

 沈黙。凍てつく空気。マルクは、引き攣った微笑を浮かべつつ、極力優しく切り出す。

マ:「アイシャ? 間違っていますよ。特技というのは、上手にできるもののことを呼ぶのですよ?」
あ:「エルミナは上手だって言ってくれました!」
マ:「お嬢様…………?」
エ:「……悪意はなかったのだということを理解して欲しい」
あ:「あの、エルミナ? それってどういう――――」
マ:「――さあ、これでつかみは問題ありませんね。それでは、お嬢様に自己紹介願いたいと思います」
あ:「ちょ、ちょっと、マルクさん! エルミナも。今のって――」
エ:「……ヴァレンシュタイン家のエルミナという。未熟者だが、当主を務めている」
マ:「はい。それではさっそく趣味をお伺いしましょうか」
あ:「……マルクさん。ひどいです」
エ:「……趣味は、読書……だろうか」
マ:「いつも書庫にこもっていらっしゃいますからね」
エ:「……本が好きでそうしているわけではないのだが」
マ:「では、純粋にご勉強なのでございますか?」
エ:「……そういうことになる」
マ:「なるほど。ですが、勉強を趣味と呼べるのはすばらしいことかと思います。それでは好きなものをお伺いしましょう」
エ:「……歌」
マ:「はい?」
エ:「……いや、いい」
マ:「ああっ? し、失礼いたしました。歌でございますか?」
エ:「……(小さく首肯)」
マ:「ええっと、オーケストラのようなものでしょうか?」
エ:「……いや、歌うこと……なのだが」
あ:「エルミナが歌うの?」
エ:「……(同じく首肯)」
あ:「わあ……。聴いてみたい」
エ:「……時がくれば、いずれ」
マ:「ええっと、ひとまず今は歌う気分にはなれないようでございます。最後に特技をお伺いしましょう」
エ:「……特技…………」
マ:「えー、たとえば、人から凄いと言われたことなのでもかまいません」
エ:「……記憶力が良いと、言われたことがある」
マ:「記憶力でございますか?」
エ:「……一度読んだ本の内容は、おおむねページごと記憶している」
マ:「…………そ、それは、また、凄い特技……というか、才能ですね」
エ:「……そうなのだろうか?」
マ:「いや、もう少し自信をお持ちになってください」
あ:「あの、マルクさん。あたしとエルミナにだけ言わせてずるいです。マルクさんだって自己紹介してください」
マ:「私ですか? 私はお嬢様のような特技はなにもありませんよ?」
エ:「……そうだろうか?」
あ:「マルクさん、特技の塊みたいなものじゃないですか」
マ:「お二人とも……、それは、恐らく……いいえ、断じて私が望んで身につけたものではありません。しかしそうですね。望んで身につけた特技ならば、ナイフ投げでしょうか」
あ:「マルクさん、よく銀食器とか投げてますもんね」
マ:(アイシャ……! 声が大きいです)」
あ:「銀食器を投げるって、大きな声で言っちゃいけないんですか?」
マ:「あの、アイシャ。謝りますから声を落として……」
エ:「……気にすることはない」
マ:「お嬢様?」
エ:「……給金から天引きするのであろう?」
マ:「ぐあっ?」

 ガックリと膝をつくマルクに、アイシャが笑顔で続ける。

あ:「それじゃあ、マルクさんの好きなものを聞いてみます」
マ:「好きなものですか? お金ですが?」
あ:「………………………………」
マ:「……………………………………」
エ:「…………………………………………」
あ:「あの、マルクさん。お金で買えないものも、きっとあると思います」
マ:「うぐっ?」
エ:「……では、趣味を聞こう」
マ:「あれ? あの、お嬢様? もしかして銀食器のこと、怒ってませんか?」
エ:「……答えたまえ(補足:マルクはエルミナの命令には逆らえない)」
マ:「………………………………」
エ:「……………………………………」
あ:「…………………………………………」
マ:「………………………………………………」
エ:「……………………………………………………」
あ:「…………………………………………………………」
マ:「あれ? 今、命令されましたよね?」
あ:「もしかして、マルクさん、趣味がないんですか……?」
マ:「え?」

 マルクは思い悩むように俯くが、その顔からは見る見るうちに血の気が引いていく。エルミナが気の毒そうに目を逸らし、アイシャはそんなマルクを励まそうとうろたえる。

あ:「ええっと、マルクさんの趣味は、趣味を探すことみたいです!」
マ:「アイシャ! それは、なんのフォローにもなってません」
あ:「それでは、『影執事マルクの手違い』をお楽しみに!」
エ:「……よろしく頼もう」
マ:「ちょっと……」

 泣き出しそうなマルクの声を閉め出すように、玄関の扉が閉じていく。

                 おしまい


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
いやー楽しいですねぇ〜、マルクを中心に屋敷のみんなでくりひろげられるコメディ。そこにタイトル影執事のところがどうストーリーに組み込まれるのかですね。
長編でも短編でもいけそうな感じです。
今日あたりインターネットで注文しますね。
enzeru
2008/10/17 08:27
ありがとうございます。
気の早いお店はもう並べているそうです。明日には店頭に並んでいるのかと思うと、緊張して眠れそうにありません。
teshima
2008/10/17 18:36

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影執事マルクの忘却
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